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ミヨタちょっくら紀行「古刹 真楽寺と浅間しゃくなげ公園を歩く」

浅間山信仰と龍神伝説が遺る古刹「真楽寺」

 御代田町の北西に位置する「塩野区」。塩野の地名は、十世紀前半にできたとされる「延喜式」に記載されている牧制度によって設置された信濃国の十六の御牧の1つ「塩野牧」に由来します。牧では、朝廷に献上する優良馬の生産が盛んに行われ、一帯からは当時の牧運営に関係するような遺跡や装飾品なども出土しています。
 塩野牧は、現在の塩野区を中心に小諸市石峠、八満、乗瀬から御代田町馬瀬口、清万、寺沢までを含む浅間山の南麓傾斜地一帯に広がっていたとされています。雄大に広がる浅間山を背に、たてがみをゆらしながら駆ける馬の足音が聞こえてくるようです。
 御代田町大字塩野字大沼地籍、塩野区集落の北西、上田市と軽井沢町を浅間山麓に沿って走る「浅間サンライン」の南、静寂な杜の中に「真言宗 智山派 浅間山 真楽寺」があります。
 真楽寺の歴史は古く、伝承によると浅間山の噴火を鎮めるために創建されたとあります。用明2年(587年)の古文書では、用明天皇勅願所として浅間山の中腹に建立され、以降数回の変遷を経て天養2年(1145年)に現在の地に移りました。

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 真楽寺は明治維新の廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)まで県内でも格式高い神仏習合の別当寺として「浅間山別当真楽寺」と名乗っていたそうです。浅間大明神(浅間信仰)の別当寺であった真楽寺は、時代を追うごとに修験寺としての勢力を増し、浅間山南麓と北佐久全域にまで管轄地が及び、佐久地域における影響力は相当大きなものがありました。
 境内では三重塔(県指定有形文化財)や樹齢千年余の神代杉(町指定天然記念物)、600年以上前に建立された仁王門・仁王像(町指定有形文化財)など6件に及ぶ県または町指定文化財を見ることができます。文化財以外にも目を惹くものや見ごたえのあるものにあふれていて、境内の仏像や本堂、長い年月を経て彩られた苔に至るまで思わずスマホやカメラを手に悠久の時の流れを撮りたくなる場所です。

龍神伝説ゆかりの地「大沼の池」

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 仁王門をくぐると両脇を空にも迫る杉並木と参道を行き交う者を見守るように佇む地蔵尊が迎え、のどかな雰囲気は一変、神聖さを感じる聖域に一歩足を踏み入れたような空気が体全体を包みます。
 杉の木から届く木漏れ日が苔で覆われた緑色の根元をかすかに照らし、冷涼な緊張感とわずかに感じる日の光の温もりが何とも言えない神秘さを作り出します。
 静まり返った参道から右脇に目を向けると、大沼の池が姿を見せます。湧水の流れに水苔が揺らぎ、透明感に満ちたエメラルドグリーンの草原にも見えます。真楽寺では、この池を諏訪大明神出現の池と呼んでおり、水面から姿を現す龍の像があります。

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甲賀三郎龍神伝説

御代田町に伝わる龍神伝説は、甲賀三郎が龍神となる云い伝えです。伝承を要約すると、美しい妻と幸せに暮らす三郎をいつの日か2人の兄は妬むようになり、一族の繁栄のためにと嘘をついて、貴重な宝玉を取りに行こうと三郎を立科山に誘い出します。
宝玉が眠るとされている深い深い人穴を三郎は藤のつるに掴まって下りていくと、兄たちは、そのつるを切ってしまい、三郎は奈落の底へと落ちてしまいます。これを知った三郎の妻は、悲しみのあまり夫の後を慕って、三郎を探すため同じくこの人穴に飛び込んでしまうのでした。
 一方、奈落の底へと落ちた三郎は、暗くどこまでも続く闇の世界を彷徨います。ようやく真楽寺の大沼の池に光明を見つけ外に出ると、その時には既に三郎は巨大な蛇身となっていたのです。
三郎は立科山を目指し、佐久を縦断すると諏訪に下り諏訪大明神になりました。そして、三郎を追って同じく地底を彷徨った妻もまた蛇身となり二人は姿を変えて地上で出会うことができたという伝承です。
 甲賀三郎の龍神伝説に由来する地名や名称が佐久地方に散見され、伝承に若干の違いはありますが、とてもスケールの大きい口碑伝承の1つと言えます。

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 この伝説にちなんで毎年7月最終土曜日に開催されるのが「信州御代田龍神まつり」です。まつり当日は、龍神伝説の地、真楽寺大沼の池のほとりで神事開眼式が執り行われたのち、御代田駅前ロータリーや龍神の杜公園までのメイン会場を所狭しと太鼓の鼓動に合わせて龍が舞います。毎年2万人以上が来場する御代田の夏を熱くたぎらせる一大イベントです。

春の小径を散策「しゃくなげ公園」

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 御代田町の新たな散策スポットとして、約10年前に真楽寺の子育て地蔵尊に隣接して整備された「浅間しゃくなげ公園」。園内の小径に沿って大輪の花を咲かせる大株のシャクナゲは、町内の愛好家が寄付したもので、春になると訪れる人の目を楽しませてくれています。

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 小径を下っていくと、高さ20mの子育て地蔵尊が見えてきます。子どもの幸せを願い近隣住民や全国からの浄財によって1億7千万円の事業費をかけて昭和61年に建設したそうです。

マゼンタとパステルピンクと桜色
春を楽しむ「浅間しゃくなげ公園まつり」

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 平成25年5月6日、記念すべき第1回「浅間しゃくなげ公園まつり」が開催されて以降、御代田町の春を楽しむイベントとして定着してきました。春先の気温や天候などの条件がそろうと、満開のしゃくなげと桜の2つを同時に楽しむことができます。

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 真楽寺子育て地蔵尊前の広場をメイン会場に、野点や町観光協会、商工会、地元区勇志らの大小さまざまな屋台が連なり、春の陽気にピッタリな賑やかさを演出しています。
 やまゆりの咲く丘公園の臨時駐車場では、花や木の苗を販売する緑の即売会も開催。会場までのシャトルバスが運行するなど多くの来場者が楽しめる春のまつりです。しゃくなげと桜の花の見ごろは例年4月中旬から5月上旬まで楽しめます。

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【アクセス】しなの鉄道 御代田駅から
 車:約10分
 徒歩:約1時間
※浅間サンラインから浅間しゃくなげ公園駐車場に入れます。
 早朝・夜間及び冬季間は閉鎖しています。


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