いかしあうデザインを探して ― MIYOTAライ麦ストロー編
こんにちは! 2021年3月からみよた町民となった、NPOグリーンズ理事/「グリーンズの学校」編集長の兼松佳宏です。
僕も関わっているグリーンズでは、「いかしあうつながりがあふれる幸せな社会」をビジョンとして掲げ、いかしあうデザインを実践するためのヒントとなる情報発信や学びの場づくりを行っています。
そもそも”いかしあうデザイン”とは、関係性を通じた、地球一個分の暮らしと社会のつくりかたのこと。(いかす、いかされるだけでなく、いかし”あう”というのがポイントです)
どうしてそれが必要なのかといえば、環境問題や社会問題などあらゆる問題を引き起こしているのは、「いかしあう」とは真逆にある、戦う、奪う、勝つことを目指す「いかしあわない」関係性にあると考えているから。
このみよたの町民noteでは、日々の暮らしの中で出会った、御代田にすでにある、あるいは芽吹きつつある、さまざまな”いかしあうデザイン”をご紹介できたらと思っています。
初回は、話題のMIYOTAライ麦ストローです。
御代田と北欧の共通点?
11月中旬。オンラインMTGが当たり前となり、地に足付けたくなってきた頃に、「ライ麦の種まきをするんですが、どうですか?」というお誘いがあり、さっそく参加することに。
声をかけてくれたのは、ペーパークラフトやヒンメリ(*フィンランドの伝統装飾。麦わらを一本の糸で一筆書きのように並べて繋ぐ多面体の造形が五穀豊穣や幸せを招くシンボルとされている)など、北欧に伝わる手工芸の作品を作っているクラフト作家の上原かなえさん。
実は、いま住んでいる御代田で、ヒンメリの材料となるライ麦を栽培しているのです。
かなえさんによると、冬は-10℃にもなる信州浅間山の麓・御代田町の気候は北欧と共通点が多く、ライ麦を育てるのにうってつけ。実際にかつての御代田では、飼料としての麦栽培も盛んだったそう。
今は休耕地となっている畑で、地元の子どもたちと一緒に蒔いた”秋まき”のライ麦は、長い冬を越してすくすく育ち、初夏頃には見事なライ麦畑の風景を魅せてくれるはずです。
ライ麦ストローが生み出す、いかしあうつながり
御代田で育ったライ麦は、初夏にまた近所の子どもたちやボランティアのみなさんと一緒に収穫され、もちろんヒンメリの材料として使われるのですが、もうひとつ、大切な使いみちがありました。
それが、プラスチック削減のための代替ストローとして注目されているライ麦ストローです。
昨年収穫分は完売したのですが、実は今年度から町のふるさと納税の返礼品にも選出され、注文受付がいよいよスタートしたばかり!
商品化のためにライ麦をキレイにしたり、サイズを揃えてカットしたり、といった一連の手作業は、御代田町社会福祉協議会が運営する「やまゆり共同作業所」などで行われています。
ひとつのことを淡々とこなすのが得意な人。細やかな手仕事に長けた人。それぞれの個性をいかしながら、新たな仕事、社会との関わりを生み出しているのです。
僕もちょっとだけ手伝わせていただいたのですが、薄い皮を剥き、茎の太い部分を20cmほどにカットすると、あっというまに、優しく土に還るエコなストローのできあがり。実際に唇に当ててみると、大地のぬくもりのような、不思議なあたたかさがありました。
つい忘れがちですが、そもそも「ストロー」とは「麦わら」のこと。実際、御代田に古くから住むおじいちゃんおばあちゃんは、よくライ麦ストローを使っていたそうで、「なんだか懐かしいねえ」と昔話に花が咲くこともあるそうです。
麦のある風景を原体験として持つ人たちがいるからこそ、新しい試みも自然な営みとして受け入れられたのかもしれません。
最初の一歩は、ひとりから。
地域に根ざした自然の素材をいかして、脱プラスチックを進めていく。休耕田をいかして、子どもたちと一緒に原風景を戻していく。また、それぞれの個性をいかして、新しい仕事を生み出していく。さらには、ふるさと納税の返礼品として地域に貢献していく。
聞けば聞くほどほれぼれしてしまう、”いかしあうデザイン”な事例といえますが、かなえさんは「そんな大それた野望はなかったんです」と笑います。
地域にはたくさんのリソース(資源)がすでにありますが、そんな恵まれた環境で暮らす人たちにとっては存在が近すぎて、あるいは当たり前すぎて、その凄みに気づきにくいもの。
そんなときは勇気を持って、「これに困っているんだけど」という困りごとだったり、「こんなことをやってみたいんだけど」という願望や思いを声に出してみることで、「それならこれが使えるかも!」という思ってもいなかった新たなアイデアが生まれていくこともあるのです。
また、かなえさんは「このモデルをどんどん真似してほしい」と続けます。
ストローづくりという”すること”(do)は同じであっても、その土地やそこに関わるひとたちの”あり方”(be)によって、必然的に生み出されていく成果は多様になっていきます。
であればこそ、アイデアを独り占めせずにオープンに共有して、試行錯誤を祝福したり、学び合ったりするほうが、豊かな社会をつくることにつながっていくのかもしれません。
まずは、わら一本から
さて、次は12月の麦踏み。その頃、私たちが蒔いた種は、どんな芽を出しているのかな? きっとそうやって、この場所を愛でたくなった人たちが空いた時間にふと集まり、つれづれな会話を楽しんでいくことでしょう。
古くから営みを守ってきた土のような人たちと、新しく引っ越してきた風のような人たち。子どもと大人、障がいのあるなし。そんな垣根をたやすく越えて、わら一本からご縁が広がっていきます。
写真提供:上原かなえさん